日本では「ゆるキャラ」がブームになっている。「ゆるキャラ」とは、「ゆるいキャラクター」を短縮した言い方だ。この「ゆるい」は、元々は「緩い」という意味。しかし最近では、「気楽なこと」や「のんびりしたこと」、あるいは「真剣な感じがしないこと」を表現するために使われるようになった。
最初の頃は「ゆるい」という言葉は否定的なイメージで使われていた。しかし今では、「心が癒される」という良いイメージが含まれるようになった。それは、日本経済がこれ以上もう成長しないということを人々が受け入れたからだろう。日本の人口は高齢化し、減少している。このため日本社会には、成長期のようなどんどんと前に突き進んでいく勢いがなくなった。そして人々は、厳しい競争社会から脱して、お互いの人生の質を大切にする協調的な社会を志向するようになった。
そんな新しい日本社会の中で人気を集めているのが「ゆるキャラ」だ。それは「強くなく」「厳しくなく」「競争的ではない」。「ゆるキャラ」は、「かわいいらしく」「面白い」。「ゆるキャラ」は、見る人に「凄くかわいい」「抱きしめたい」「守ってあげたい」という、「萌え」の感情を湧かせる存在なのである。
この「ゆるキャラ」に目をつけたのが地方自治体だ。日本は人口の高齢化と減少で、特に地方の活力が低下している。地方自治体は、「一村一品」やイベントなどで、「町おこし（地方活性化）」の努力を続けているが、地方経済はどこも縮小が止まらない。そこで、集客のために少しでも知名度を高めようと、街の新しいPRマスコットとして「ゆるキャラ」を作るところが増えている。滋賀県彦根市の「ゆるキャラ・サミット情報局」が集計している「都道府県別登録キャラ数ランキング」によると、2011年末で274種類ものキャラクターが登録されている。
このように日本各地で「ゆるキャラ」が誕生したことから、それらの「ゆるキャラ」を集め、料理や特産品が即売されるイベントが催されるようになった。最も有名なのは彦根市が2008年に始めた「ゆるキャラまつりin彦根」だ。2011年の10月22日と23日に開催された第4回大会には、全国から210体の「ゆるキャラ」が集まり、約8万人の入場者があった。
一方、11月26日と27日の2日間に渡って、東日本震災からの復興支援も兼ねた「第2回ゆるキャラさみっとin羽生（はにゅう）」が埼玉県羽生市で開催された。このイベントには全国から180体の「ゆるキャラ」が集合し、13万5000人もの入場者があった。
このゆるキャラさみっとin羽生では、「ゆるキャラ」コンテストが行われ、熊本県の「くまモン」が1位に輝いた。2位は愛媛県今冶市の「バリィさん」。そして3位には極めてユニークな「にしこくん」（東京都国分寺市）が選ばれた。
「ゆるキャラ」の中で最も有名なのは、彦根市の「ひこにゃん」だろう。彦根市の公式ホームページにあるプロフィールを見ると、「ひこにゃん」は元々は「招き猫」だった。江戸時代に彦根の大名だった井伊直孝（いい・なおたか）を、お寺の門前から境内に手招きし、激しい雷雨から守ったとされる伝説の「招き猫」だ。それに、井伊直孝の軍隊が付けていた朱塗りの兜を被せた。「ひこにゃん」は、無邪気な表情の猫と、赤い兜の滑稽さが、見る人の心を癒す。「ひこにゃん」を見た人の中には「萌え」を感じる人もいるようだ。
「ひこにゃん」は東日本大震災の後に被災者を応援するため福島県郡山市を訪問したことがある。その返礼も含めて、2012年の正月には、なんと8911通もの年賀状が届いた。まさにスターアイドル並の人気だ。
この地方自治体の「ゆるキャラ」には失敗例もある。山口県宇治市が作ったキャラクター「エコハちゃん」は、ポケモンのピカチュウそっくりだったことから、著作権侵害の批判を浴び、2011年8月に使用を中止した。
北海道の長万部には「まんべくん」というキャラクターがいる。「まんべくん」はツイッターでの毒舌発言が受けて人気者だった。ところが、第二次世界大戦における日本の戦争責任を認める発言をしたことで、「ゆるキャラが政治的発言をするのは相応しくない」と批判され、2011年8月にツイッターを停止させられた。ただ、2012年1月に再開した模様だ。「まんべくん」に反省の様子はなく、これも天真爛漫な「ゆるキャラ」の特徴と言えそうだ。By Noboru
